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名古屋高等裁判所 昭和37年(ラ)13号 決定

抗告人 丸惣洋服株式会社

訴訟代理人 高井吉兵衛

相手方 三菱商事株式会社

主文

原決定を取消す。

本件不動産引渡命令申立を却下する。

理由

抗告人の抗告趣旨及び理由は別紙添付の通りである。

競落代金完済後の競落人は競売法第三二条第二項民事訴訟法第六八七条により執行裁判所に対し競落不動産に対する債務者の占有を解いて自己への引渡命令を申立ることができる。これは引渡命令手続という簡易な競売事件の附随手続により迅速に処理し、競落人と原不動産所有者との間に紛争を生ずるのを避ける趣旨である。従つて右引渡命令の申立は競落代金完納後相当の期間内になされることが必要である。(福岡高等裁判所昭和三六年(ラ)第八号、昭和三六年二月一三日決定、下級裁判所民事裁判例集第一二巻第二号七九頁以下参照)。ところが競落許可決定(本件記録六二丁)、代金支払期日呼出状送達報告書(同六六丁)、登記嘱託書(同六七丁)、不動産引渡命令の申請書(同一一七丁)、委任状(同一二三丁)に抗告会社代表者本人及び相手会社代表者本人の原審における各尋問の結果を綜合すると、相手方は昭和三四年一二月二一日本件不動産を競落、昭和三五年一月一四日その代金を支払い、右競落後昭和三五年暮までの間は抗告人との間に伊藤金逸その他を通して本件不動産の買戻、引渡などの交渉があつたが、その後競落人が引渡命令申立をなすに特段の支障がないのにかかわらず、相手方は昭和三六年九月三〇日附弁護士宮原正行に対する委任状により弁護士をして同年一〇月一二日本件引渡命令を申立てたことが認められる。従つて相手方は右九ケ月間を経過して本件申立手続をするに至つたのは前説示の相当期間を経過した不当な申立であるというべきであるから、その申立を許すべきでない。

よつて抗告理由を審査することなく、原決定を失当として取消し本件引渡命令を却下すべきものとし、民事訴訟法第四一四条、第三八六条により主文の通り決定する。

(裁判長判事 県宏 判事 越川純吉 判事 奥村義雄)

抗告の趣旨および理由

抗告の趣旨

原決定を取消し被申立人申請の不動産引渡命令は之れを許さざる旨の御決定相成度

原決定は十二月十八日申立人に対し送達されたるも不服につき抗告申立する

理由

一、別記不動産は元訴外土屋実の所有なりし処同人は之れに対し、

(一) 昭和三十一年八月二十三日岐阜信用保証協会に対し第一番根抵当権を設定

(二) 昭和三十三年八月十九日名古屋市中区呉服町四丁目大丸株式会社に対し、第二番根抵当権を設定した

二 然る処訴外大丸株式会社は昭和三十四年四月二十八日抵当権の実行として別記不動産に対し競売の申立を為し岐阜地方裁判所に於て同月三十日競売開始決定となり次で同日其旨登記された

三、而して其競売事件は進行して被申立人は競落人となり同庁に於て昭和三十四年十二月二十一日競落許可決定となり昭和三十五年一月十六日別記不動産の所有権移転の登記が為された

四、申立会社は元岐阜玉宮町に本店を有し、株式会社中部労組物資協会と称し、繊維品、電気機具、皮革品、化粧品類の販売を業とするものなる処昭和三十二年二月十五日その商号を株式会社土屋洋服と変更し、次で昭和三十二年二月十五日本店を本件建物内に移転し其旨同月十九日登記を為した

五、而して本件建物の当時の所有者土屋実が所有者であり且つ居住し居りし為同建物内に同居して建物を営業所として賃借使用する旨の契約を為し、土屋実に対し賃料を支払いつつ営業を継続せるものである。而して其期間昭和三四年二月一日商号を土屋洋服株式会社と改称し次で昭和三十六年三月二十日商号を丸惣洋服株式会社と変更し何れも其都度登記済である

六、以上の如く申立人は此建物内には昭和三十二年二月十五日以来店舗を有し営業し来れるもの此建物の競売申立は昭和三十四年四月にしてそれより以前から此建物内に於て営業し建物の占有者である

七、然るに被申立人は昭和三十四年十二月二十一日此建物を競落所有権を取得したるもので落競による建物の引渡命令は建物の差押以後の占有者に対してのみ許さるべきものなるに本件引渡命令は其前より占有せる申立人に対して引渡を命じたるは違法につき本日其取消を求むる為本件抗告申立に及びたり

岐阜市日の本町三丁目四番

家屋番号二十番

一、木造瓦葺弐階建居宅

建坪 十三坪五合

弐階坪 十二坪

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